地質と滝（地層区分毎の比較）

 滝と地質の関係を見ることは本HPのテーマの一つであるが、滝を構成する岩石の種類は広範である。中には類例の少ない岩石も多数あり、統計学的な検討が困難である。そこで、各岩石を似通った成因別に８群にして集計し、滝の諸因子との関連を見た。
　検討に用いた滝数は砕屑岩（砂岩、泥岩、礫岩、砂岩泥岩互層など）１５４滝、他の堆積岩（チャート、玄武岩溶岩、石灰岩など）１１１、火砕岩・溶結凝灰岩１８０、安山岩１９５、他の溶岩（流紋岩、玄武岩、詳細不明の溶岩など）１０２、花崗岩１１２、他の深成岩（花崗班岩、花崗閃緑岩、閃緑岩など）９０、変成岩（ホルンフェルス、結晶片岩、片麻岩、蛇紋岩など）８０、計１０２４滝である。単瀑は砕屑岩１１１、他の堆積岩７８、火砕岩・溶結凝灰岩１３４、安山岩１５７、他の溶岩８０、花崗岩８３、他の深成岩７２、変成岩５９、計７７４滝であった。なお、検討によってはデータ不明の滝があり除外したため、滝数は微妙に異なった。ただし、検討滝数が多く、全体の結論には影響しないと考えられるので詳細は省略した。
　なお、このページは北中康文著「日本の滝、東日本６６１滝^１）、西日本７６７滝^２）」に記載された滝データ、地質データをもとに行ったメタ解析の一部である。

１．滝の構成岩石の地層区分と形態分類の関係
　滝の分類としては永瀬嘉平氏の著作に紹介された分類法（直瀑、渓流瀑、段瀑などに分類。以下、永瀬氏分類とする）が最も有名である。この分類は滝の姿が人の心にどのように映るかという事に着目した心象分類と言えるであろう。簡単で分かり易く、印象深いという特徴を持つ。しかし科学的な観点からは問題が多い。
　HP「滝を観る」に記載された分類（以下、滝おやじ分類）は科学的観点からみた客観的で重厚な分類である。分類法というよりも客観的な滝の記述法という色彩が強く、初心者にはやや難解である。今回はメインの分類のみを検討に用いた。
　緑で示す直瀑は他の堆積岩、安山岩、他の溶岩に多く、青で示す分岐瀑は砕屑岩、火砕岩・溶結凝灰岩、他の深成岩に多かった。黄色の渓流瀑は花崗岩、火砕岩・溶結凝灰岩、砕屑岩に多かった。ピンクの段瀑は砕屑岩、他の堆積岩、花崗岩、変成岩に多かった。

　滝おやじ分類では緑で示す連瀑は砕屑岩、他の堆積岩、花崗岩、変成岩に多かった。青で示す階瀑は花崗岩に少ないのが目立った。黄色の懸崖瀑は安山岩、他の溶岩、火砕岩・溶結凝灰岩、砕屑岩でほとんどを占めた。ピンクの直下瀑は他の溶岩、安山岩、火砕岩・溶結凝灰岩に多かった。オレンジの急斜瀑は他の深成岩、変成岩、砕屑岩に多かった。紺色の緩斜瀑は花崗岩に多いのが目立った。灰色の壇瀑は他の溶岩、火砕岩・溶結凝灰岩に多かった。

　

２．滝の構成岩石の地層区分と落差の関係  　図２Aに全滝を用いた落差の集計を示す。それぞれの地層区分の落差の平均を棒の高さに、上に付けたひげで標準偏差を表す。 　残念ながら統計学的な有意差は示さなかった。  そこで、滝おやじ分類の連瀑と壇瀑を除き、単瀑のみにして落差を比較した（図２Ｂ）。 　その結果安山岩、次いでその他の溶岩の滝が落差が高かった。他の堆積岩、花崗岩に懸かる滝の落差が低かった。 　火山岩に懸かる滝が落差が高いと考えられる。
	図２A．滝の構成岩石の地層区分別の落差の比較（全滝） 統計学的有意差は見られなかった。
	図２Ｂ．滝の構成岩石の地層区分別の落差の比較（単瀑のみ） 多重比較：安山岩は他の溶岩以外のすべての群と比較して有意に高かった。他の溶岩は他の堆積岩、花崗岩に比較して有意に高かった。
３．滝の構成岩石の地層区分と滝面傾斜の関係（単独瀑のみでの検討） 　滝おやじ分類の連瀑と壇瀑を除き単独瀑として、滝面の傾斜を検討した（図３）。 　滝面傾斜を懸崖瀑を１、直下瀑：２、急斜瀑：３、中傾斜瀑：４、緩斜瀑：５として点数化した。ただし、滝おやじ分類の緩斜瀑を比較的傾斜が急のものを中傾斜瀑、緩いものを緩斜瀑とした。また、階瀑は全体の傾斜で上記点数のいずれかを割り当てた。後は滝おやじ分類をそのまま用いた。従って、数字が小さいほど急傾斜であることを示す。 　その結果、安山岩、次いで火砕岩・溶結凝灰岩、その他の溶岩が急傾斜であった。逆に、花崗岩、次いでその他の深成岩が緩傾斜であった。 　火山岩が急傾斜、深成岩が緩傾斜ということであった。一方、堆積岩、変成岩は中間的値であった。
	図３．滝の構成岩石の地層区分と滝面傾斜の関係（単独瀑） 多重比較：安山岩は火砕岩・溶結凝灰岩、他の溶岩以外の全群より有意に急傾斜で、花崗岩は他の深成岩、変成岩以外の全群に比較して有意に緩傾斜である。火砕岩・溶結凝灰岩、他の溶岩は他の深成岩に比較して有意に急傾斜である。
４．滝の構成岩石の地層区分と連瀑数の関係 　　連瀑数とは私が勝手に作った言葉である。段瀑なら段数に相当する。単独瀑が１となり、二連瀑は２となるのだが、多連になると書籍からは正確な情報が得られないので、５連瀑以上はすべて５とした（本文中に連瀑数が書いてある場合を含む）。 　その結果、最も連瀑数が多いのが変成岩であり、少ないのが安山岩、次いで火砕岩・溶結凝灰岩、その他の溶岩、その他の深成岩であった。 　この結果を図１Ｂの結果と比べると、連瀑の頻度が高い地層区分で連瀑数も多くなっている。
	図４．滝の構成岩石の地層区分と連瀑数の関係 多重比較：安山岩は砕屑岩、他の堆積岩、花崗岩、変成岩より有意に少なかった。更に変成岩は火砕岩・溶結凝灰岩、他の溶岩、他の深成岩よりも有意に多かった。
５．滝の構成岩石の地層区分と滝の標高との関係 　滝の標高が何を意味するのか客観的に評価するのは難しいが、北中氏の著作では全滝に滝口の標高が記載してあるので、集計してみた（図５）。 　標高の平均を棒の高さで、上に付けたひげで標準偏差を表す。 　その結果、安山岩が最も標高が高く、火砕岩・溶結凝灰岩、花崗岩、他の堆積岩と続いた。砕屑岩が最も低かった。
	図５．滝の構成岩石の地層区分と滝の標高との関係 多重比較：安山岩はすべての群より有意に高かった。更に火砕岩・溶結凝灰岩は砕屑岩、他の深成岩より有意に高く、砕屑岩は他の堆積岩、花崗岩に比較して有意に低かった。
６．滝の構成岩石の地層区分と地質年代の関係 　地層区分とその岩石ができた地質年代といってもそれは岩石そのものの性格であって、滝とは関係で変わるものではない。 　安山岩、他の溶岩、火砕岩・溶結凝灰岩の地質年代が若く、他の堆積岩（チャートや玄武岩溶岩）、変成岩などは古いものが多い。
	図６．滝の構成岩石の地層区分と地質年代の関係 数字が小さい方が新しいものを大きいと古いものを示す。１：第四紀完新世、２：第四紀更新世、３：新第三紀鮮新世、４：新第三紀中新世、５：古第三紀漸新世、６：古第三紀始新世、７：古第三紀暁新世、８：白亜紀、９：ジュラ紀、１０：三畳紀、１１：ペルム紀、１２：石炭紀、１３：デボン紀、１４：シルル紀。各棒が平均地質年代を、上に付けたひげが標準偏差を表す。多重比較：砕屑岩と花崗岩の以外のすべての組み合わせで有意差があった。

まとめ
１．滝形態分類の、永瀬氏分類では火山岩（火砕岩・溶結凝灰岩、安山岩、他の溶岩）と他の堆積岩では直瀑が多く、分岐瀑は砕屑岩、火砕岩・溶結凝灰岩、他の深成岩に多かった。渓流瀑は花崗岩、火砕岩・溶結凝灰岩、砕屑岩に多かった。段瀑は砕屑岩、他の堆積岩、花崗岩、変成岩に多かった。 

２．滝形態分類の、滝おやじ分類では連瀑は火山岩と他の深成岩に少なく、他の群には多かった。懸崖瀑は火山岩と砕屑岩がほとんどだった。直下瀑は火山岩に多かった。急斜瀑は他の深成岩、変成岩、砕屑岩に多かった。緩斜瀑は花崗岩に多かった。壇瀑は他の溶岩、火砕流・溶結凝灰岩に多かった。 

３．滝全体で落差を比較しても差はなかったが、単瀑では火山岩の落差が高く、傾斜も急であった。逆に花崗岩は落差も低く、傾斜も緩かった。他の深成岩がそれに次いだ。 

４．連瀑数は安山岩はじめ火山岩に少なく、変成岩、花崗岩が多かった。 安山岩の標高が高く、火山岩の形成年代が若かった。

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参考文献

１）北中康文（２００４）：日本の滝�@東日本６６１滝．山と渓谷社

２）北中康文（２００６）：日本の滝�A西日本７６７滝．山と渓谷社